<設立趣意>

  司法の言語については、これまで法学界はもとより、哲学・社会学・心理学においても活発な議論と研究がなされてきた。言語学の世界においては、1990年代初頭に英国で国際法言語学会(International Association of Forensic Linguists)が設立され、司法の 言語に関する実証的・実務的研究が積み重ねられてきた。このような取り組みには、「法言語学」(forensic linguistics)という名称が与えられ、学問上の市民権を得て久しい。
 日本でも21世紀に入って、この分野の注目すべき論文が次々に発表され、研究書も一般書も刊行されるようになった。そして、2009年(平成21年)5 月21日の裁判員制度の施行を迎え、国民の司法への関心も大いに高まっている。この大規模な司法改革の流れの中で、法曹界からも法への学際的アプロ−チに 期待が寄せられている。
 現在、私たちが強い関心をもつ「法と言語」の研究対象には、次の7つが含まれる。

1.司法の言語(法律用語・法律文、法廷用語や判決文を含む裁判の言語など)
2.司法通訳における言語使用
3.司法翻訳
4.言語権・言語法
5.ことばの犯罪(贈収賄、脅迫、偽証、不穏当表現など)
6.ことばの証拠(筆者・著者または話者の同定、商標の類否など)
7.司法コミュニケーションの諸問題
8.法言語教育(Language for Legal Purposes)
9.法言語学史(成立と発展)

 これらを論じる場として、「法と言語研究会」を2004年5月に設け、相互啓発に努めてきた。その研究成果も相当数蓄積されてきたので、これを学術団体 として組織化すべきであると判断し、今ここに「法と言語 学会」(Japan Association for Language and Law)を設立する。
 この学会の設立によって、これまで国内の関連学会で散発的に行われてきたさまざまな発表・報告などが1つに束ねられ、固有の学問分野または研究領域とし て確立することを期待する。近い将来、司法の言語を研究する「法言語学」という分野が、日本においても学際的言語研究として発展するだけでなく、法哲学・ 法社会学・法心理学などと同じく、基礎法学の一分野として認知されることを切に願うものである。そのためにも、私たちの学会は、法の言語に関心のある研究 者と実務家の参加を得て、協同して学界と法曹界と社会に貢献するように努める。以上をもって「法と言語 学会」設立の趣意とする。

2009年5月17日
(起案 橋内武)

<設立発起人> (五十音順 [所属は学会設立当時のもの])
大河原眞美(高崎経済大学) 太田勝造(東京大学)
川島慶雄(大阪大学名誉教授) 河原清志(英語通訳者)
John Gibbons (西シドニー大学) Malcolm Coulthard(アストン大学)
小島武司(桐蔭横浜大学) 酒井幸(東京弁護士会)
佐藤純通(司法書士・日本司法書士会長) Roger Shuy (ジョージタウン大学名誉教授)
首藤佐智子(早稲田大学) 関沢紘一(在日米海軍統合法務局)
Lawrence Solan(ブルックリン・ロースクール) 武田珂代子(モントレー国際大学)
鶴田知佳子(東京外国語大学) Peter Tiersma (ロヨラ・ロースクール)
鳥飼玖美子(立教大学) Margaret van Naerssen (イマクラタ大学)
中根育子(メルボルン大学) 中村幸子(愛知学院大学)
西村健(大阪弁護士会) Ric Powell (日本大学)
橋内武(桃山学院大学) 藤田政博(政策研究大学院大学)
原不二子(株式会社ディプロマット) 堀田秀吾(明治大学)
水野真木子(金城学院大学) 吉田理加(スペイン語通訳者)
渡辺修(甲南大学法科大学院)
<会長> 
大河原 眞美 (高崎経済大学)

<<副会長・事務局)> 
水野 真木子(金城学院大学)

<理事>(50音順)
首藤 佐智子(早稲田大学)
中村 幸子(愛知学院大学)
橋内 武(桃山学院大学)
札埜 和男(京都教育大学附属高校)
堀田 秀吾(明治大学)
渡辺 修(甲南大学)
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